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福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)914号 判決

九一四号控訴人 九三一号被控訴人(被告) 永末星之助 外二六名

九一四号被控訴人 九三一号控訴人(原告) 株式会社幸袋工作所

主文

一  一審被告永末星之助、肘井徳雄、洞ノ上敏幸、黒川又市、田中稔、香月徳一郎、石丸隆、白神弘、山中鉄之進、岩下勝行、大塚時雄、鬼崎光夫、塩塚[貝生]一、大坪正人、中井幸二郎、門司輝久は一審原告に対し、別紙物件目録(三)記載のトタン小屋を収去して、同目録(一)記載の土地を明け渡せ。

二  一審被告らは一審原告に対し、別紙物件目録(四)記載の立看板を撤去せよ。

三  第一項掲記の一審被告らを除くその余の一審被告らに対する一審原告のその余の当審における新請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

五  一、二項は仮に執行することができる。

事実

(申立て)

一審原告

一審被告らは一審原告に対し、別紙物件目録(三)記載のトタン小屋(以下、本件小屋という。)を収去して同目録(一)記載の土地(以下、本件(一)の土地という。)を明け渡せ。

一審被告らは一審原告に対し、別紙物件目録(四)記載の立看板(以下、本件立看板という。)を撤去せよ。

訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

との判決(当審において訴えを交換的に変更した。)及び仮執行の宣言。

一審被告ら

一審原告の当審における新請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

との判決。

(主張)

一  請求原因

1  一審原告は、本件(一)、(二)の各土地を所有している。

2  一審被告永末星之助、大坪輝光、肘井徳雄、洞ノ上敏幸、黒川又市、田中稔、香月徳一郎、石丸隆、白神弘、山中鉄之進、岩下勝行、大塚時雄、鬼崎光夫、塩塚[貝生]一、大坪正人、中井幸二郎、門司輝久は、昭和五一年九月二三日本件小屋を設置し、本件(一)の土地を占有している。

3  一審被告らは、昭和四二年ころ本件立看板を設置し(文言は昭和四三、四四年の二回にわたり書き換えられている。)、本件(二)の土地を占有している。

4  よつて、一審原告は一審被告らに対し、本件小屋収去による本件(一)の土地の明渡し及び本件立看板の撤去を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実中、一審原告の主張する日に本件小屋が設置されたことは認め、その余は否認する。

3  同3の事実中、一審被告らが本件立看板を設置した点は否認し、その余は認める。

すなわち、本件小屋及び立看板を設置したのは、全国金属労働組合福岡地方本部幸袋支部(以下、単に組合という。)である。

三  抗弁

仮に、請求原因事実が認められるとしても、本件小屋及び立看板並びに本件小屋よりも前に設置されていた天幕小屋等の設置は、一審原告の一審被告らに対する違法な指名解雇に対し一審被告らが労働基本権に基づいてなしているものであり、一審原告の本訴請求は、次に述べるとおり権利の濫用に該当し許されるべきではない。

1  一審被告らが本件小屋及び立看板並びに本件小屋よりも前に設置されていた天幕小屋等を設置するに至つた背景には、一審被告らの所属する組合の組織破壊を意図した一審原告の数々の違法な行為がある。

(一) 一審原告の前代表者訴外堀五十二は、昭和三八年一〇月に一審原告の資本系列が伊藤系から日鉄系に切り換えられた直後に代表者に就任し、それ以来労働組合の組織に対する労務管理体制は組合員との日本的人間関係を作り上げることを目的とする誕生会、むつみ会(役付工員の集団)、野球部などの発会、組合幹部との飲み会の試みなどいわゆる飴の政策をとり、他方では申請人一審被告中井幸二郎ほか一名、被申請人一審原告間の福岡地方裁判所飯塚支部昭和四〇年(ヨ)第三二号地位保全等仮処分申請事件にみられるごとく、仕事にも熱心で、かつ、組合活動家である青年一審被告中井幸二郎、同門司輝久の二名を懲戒解雇処分にした。

(二) その間、組合役員の選挙に際しては一審原告のいいなりになるような役員を選出させるために、就業時間の内外を問わず従業員の自宅まで職制並びに前記むつみ会の会員を差し向けて組合組織を支配しようとし、特に昭和四〇年八月と昭和四一年八月の組合役員選挙に対する干渉は、一審原告の指名する委員長、副委員長、書記長への名指しの応援となつた。

(三) 前記昭和四〇年(ヨ)第三二号事件の口頭弁論の進行に伴つて、一審原告の不当労働行為事実が組合員の間に衆知され始めるや、一審原告は組合を挑発し組織の破壊を狙つて、昭和四一年八月二二日に希望退職を提案してきたうえ、翌九月一二日付けで、前記昭和四〇年(ヨ)第三二号事件の証人として出廷した元執行委員長、元副委員長、元書記長、元執行委員を含む一審被告ら(一審被告中井幸二郎、門司輝久を除く。)組合活動家計四九名を指名解雇した。

(四) 組合はこれに対処すべく支部臨時大会を開き、「長期路線で闘い、いわゆる局地戦から地方本部を舞台に統一闘争に拡げる」との方針を決定した。他方一審原告は、飯塚市内の某所に職制を集め、組長を中心にして条件闘争に切り換えることの署名運動を起こさせることを決議し、申請人一審原告、被申請人一審被告永末星之助ほか四八名(被申請人中には一審被告らのうち、一審被告中井幸二郎、門司輝久を除くその余の一審被告ら全員を含む。)間の福岡地方裁判所飯塚支部昭和四一年(ヨ)第四一号立入禁止等仮処分申請事件につき、同年九月二七日発せられた一審原告構内への立入禁止仮処分決定を錦の御旗として、「従業員の皆さん」と題するビラを組合員に配布すると同時に、前記むつみ会を使つての条件闘争に切り換えのためのお願書提出や職制を使つての懇談会開催申入れが組合に対して行われた。

(五) 一審原告の意図を見抜き、これと対決の姿勢を固めた組合は、昭和四一年一〇月一一、一二日の両日全国金属労働組合員としての再登録を実施したが、一審原告は、右再登録に応じないように働きかけていた組合の前執行委員長と秘密協定を結んだうえ、一審被告らを除く大多数の従業員をして第二組合を結成させて右組合を支配するに至り、前記昭和四〇年(ヨ)第三二号事件をも一審原告に有利にするため、右事件の本案事件として確認の利益の点で疑問のある解雇有効確認の訴えを提起し、これに伴う証拠保全の申立てと並んで本件を提起するに至つたのである。

2  (一) 一審被告らは、以上詳細に述べたとおり、一審原告から違法に解雇されたものであるから労働者として憲法第二七条第一項の労働権、憲法第二八条の団結権、団体交渉権、争議権等の労働基本権を具体的に一審原告に対し行使しうる地位にあるといわなければならない。

また、日本国憲法は、第二八条において労働者に勤労者の団結する権利及び団体交渉権その他の団体行動をなす権利を保障する一方、これに対応する使用者の財産権については、第二九条第二項において財産権の内容は公共の福祉に適合するようにこれを法律で定めると規定しているところ、広義の団結権も公共の福祉の名によつて制限されるか否かについて、学説は区々であるが、学説、判例を含めて広義の団結権の侵害が使用者の権利の濫用に当たる場合には、その団結権行使は公共の福祉の範囲内であるとするのが現に導き出された結論である。

(二) ところで、一審被告らの所属する組合は、一応機械工業関係に働く労働者が加入して組織した産業別の組合であるが、その実態は欧米に見られるように個々の労働者が組合費を直接に全国組織に納入し、その一部が当該労働者の所属する職場を単位とする組織すなわち支部に還元されるといういわゆる単一組織とは異つている。すなわち、組合費の徴収及びその使途についてみても日本的労働組合の組織といわれる企業別組合、更に同種の企業別組合が各組織を単位として連合体を形成する場合と何ら異ならないものになつており、したがつて、各組合は、各企業の事業所ごとに独自に広義の団結権を行使しなければならない。更に、欧米に見られるようにスト破りは労使双方ともに破廉恥行為であるという労働者のモラルないしは社会的な常識が定着していないこともあいまつて、組合は各支部ごとにこれに対応する事業所に対し強力な争議活動をなさざるをえない。

一審被告らは、一審原告の組合組織破壊を意図した数々の不当労働行為の中で(1)企業内の労働者に対する継続的な訴え、(2)一般世論に対する地元での訴え、(3)一審被告らの連帯の再確認、(4)他の労働者との連帯表示などを目的として、従来からの労働運動の中で形成されてきた形態及び社会通念を考慮して、本件小屋及び立看板等を設置しているものである。

全国各地の組合の紛争時においては、一般市民の目につきやすいところに多数の赤旗が立てられるのが通例であり、更に半永久的なピケ小屋が無数に設置された例もあり、一審原告においても昭和三五年度の紛争時に、組合によつて天幕小屋の設置、赤旗の林立がなされたことがあるのに一審原告は、その撤去を求める通告さえしなかつたのである。

したがつて、一審被告らの本件小屋及び立看板の設置は顕著な違法があるものということができない。

(三) 一審被告らの所属する組合は1で述べたような一審原告の組合破壊を目的とする労働組合法第七条第一、第三項の不当労働行為により壊滅的というべき程度の損害を被つており、一審原告の構内で就労している組合員の数は、昭和四一年九月一五日当時では約二八〇名であつたものが同年一〇月二〇日以降においてはわずかに数名に過ぎず、一審被告らは前記昭和四一年(ヨ)第四一号事件の立入禁止仮処分決定により、一審原告の構内に立ち入り就労することを禁止されている。したがつて、一審被告らにとつては広義の団結権が残された唯一の方法となつているのである。

右のような事情のもとにおいては、万一本件小屋及び立看板を撤去させられたならば、一審被告らは団結のシンボル、他の労働団体への訴えのシンボルないし地域住民への訴えのシンボルを失うこととなり、図り知れない損失を受けることとなるが、一方、一審原告の被る損害は絶無ないし軽微なものであり、その程度はほとんどいうに足りないものである。

3  以上のとおり、一審被告らによる本件小屋及び立看板の設置は、明らかに違法である場合を除き、憲法第二八条にいう労働基本権の内容として容認されているものであり、かつ、本件小屋及び立看板等の設置はもともと一審原告が組合組織を不法に破壊しようとした結果、自ら招いた事態であるからクリーンハンドの原則、信義誠実の原則からみても、一審被告らの行動が明らかに違法とはいえない以上、一審原告において受忍すべき義務があるといわなければならない。

四  抗弁に対する認否及び主張

1  本件(一)、(二)の各土地は、一審原告が従来業務上使用していたものであるが、一審被告らの設置した本件小屋及び立看板並びに本件小屋よりも以前に設置されていた天幕小屋等のために使用不可能となり、一審原告は、次に述べるとおり多大の損害、迷惑を被つている。

(一) 本件(一)、(二)の各土地は、一審原告の鋳物工場等で使用する砂、石炭その他の生産資材等を運搬する貨車が専用引込線を通つて進入してきた際、積荷を卸し、これらの生産資材を貨物自動車等で工場に搬入するまでの置場所として使用し、また、製品の搬出、資材の搬入のために一審原告に出入りする大型トラック等が方向転換したり駐車する場所でもあつて、一審原告の業務上必要欠くべからざる重要な場所であつた。

しかるに、一審被告らの天幕小屋設置による不法占拠のため一審原告は約二〇〇メートル離れた幸袋駅の構内で右の生産資材を卸すことを余儀なくされ、余分の運搬費として毎月金二万円の出捐を余儀なくされるとともに、時間的にも損失を被つた。

(二) 昭和四五年ころ、国鉄幸袋駅が廃止されたのに伴い、天幕小屋の前にあつた一審原告の専用引込線は撤去され、一審原告はその跡地をトラックの出入口及び製品や資材の積卸し場所として利用しているが、トラックの通行が著しく妨害されている。すなわち、出入口は二枚折りの鉄扉二組が開閉されるようになつているが、本件小屋及びそれよりも前に設置されていた天幕小屋のためにその一組が用をなさない状態にあり、トラックの進入路が半分に狭められている。

(三) また、右出入口のほか、一審原告の表門からもトラック、乗用車が一日平均一〇〇台位は出入りするのであるが、近時トラックの大型化に伴い幅約五・五メートルの表門が狭隘となつており、これを拡幅する必要に迫まられているのに、本件小屋及び立看板があるためにそれが不可能な状態にある。

更に、国鉄幸袋線の跡地は、飯塚市の市道となつており、表門から市道までの距離は約八メートルであり、その市道から表門にトラック等が出入りするには、直角に曲がらなければならないが、表門が狭隘なため何回もハンドルを切り換えなければならない状態であり、交通量の多い市道にしばしば交通渋滞を生じさせている。

ちなみに、表門が狭隘なため、出入りするトラックが運転操作を誤り門の支柱やブロック塀にしばしば損傷を与えているのである。

2  右のような事実上の支障のほか、一審原告は営業活動の分野においても著しい迷惑を被つている。

すなわち、一審被告らは、一審原告の顔ともいうべき正門に本件小屋及び立看板を設置し、会社の体面、体裁を著しく傷つけている。また、一審原告に出入りする得意先、商社その他の人々に強い悪印象と不安感とを与えている。一審原告は、一般産業機械、車両部品、バルブ等を製造販売しているが、得意先から特に製品の納期を厳守するように要求されているのに、正門の姿は納期に対する強い不安感を抱かせる結果となり、いちいち弁明に努めている状態であり、現在の長期不況の中で一審原告のような中小機械メーカーがその生死をかけた激しい受注競争下にあるとき、一審被告らの設置した本件小屋及び立看板のため営業活動に多大の支障をきたしていることは、多言を要しないところである。

3  これに反し、一審被告らによる本件小屋及び立看板等の設置は、もつぱら一審原告に対するいやがらせと業務妨害を目的とするものにほかならず、何ら正当な必要性に基づくものではない。このことは次の事実からみても明らかである。

(一) 一審被告らが昭和四一年九月一六日ころ天幕小屋を設置した当初はこれを利用していたが、その数か月後ころからは、月に一度位数分間一審被告らのうちの一部の者が立ち寄る程度であり、昭和四五年夏ころからは誰も寄り付かず、天幕小屋は腐蝕するがままになつていた。

(二) ところが、一審被告らは共謀のうえ、突然昭和四六年一〇月一七日の日曜日に一審原告の警戒陣の手薄を奇貨として、腐蝕した右天幕小屋を撤去して同じ場所に新しい天幕小屋を設置した。

そこで、一審原告は、昭和四六年一〇月二一日福岡地方裁判所に対し右新天幕小屋等の撤去等を求める仮処分の申請をし、同年一二月二七日「天幕についてその現状を変更し、若しくは、その占有を第三者に移転してはならない」旨の決定がなされた。

(三) 一審被告らは、右仮処分決定後も新天幕小屋を使用しないまま放置していたところ、昭和五一年九月一二日の台風により右天幕小屋の一部が損壊した。

すると、請求原因2掲記の一審被告らは、共謀して、同月一九日から同月二三日にかけて一審原告の守衛の再三の制止を無視して右天幕小屋を撤去するとともに、本件小屋を設置したのである。

4  以上のとおりの実情であつて、一審被告らの権利濫用の主張はこれを争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  本件(一)、(二)の各土地の所有について

成立に争いのない甲第一、第六号証、原審証人尾上昌の証言(第一回)により成立の認められる甲第三、第一〇号証、右証言(第二回)により成立の認められる甲第一一号証、原審(第一、二回)及び当審(第一回)証人尾上昌の証言によれば、請求原因1の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  本件小屋の設置等について

1  当裁判所は、昭和四一年九月一六日ころに設置された旧天幕小屋、立看板等は、一審被告らを含む指名解雇された者の独自の判断に基づいて、すなわち、組合の指令に基づかないで設置されたものと判断する。

その理由は、原判決理由説示四と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一七枚目表五行目の冒頭から同六行目の「拒絶した。」までを「永末星之助ら二五名を含む計四九名に対して退職の勧告をした。」に改め、同八行目の「が、」の次に「一審原告は、同日右四九名の者を指名解雇し、就労を拒否した。」を加え、同一八枚目表一〇行目の「而して」から同裏一行目の末尾までを削る。)。

右認定に反する当審証人八代栄三、坂本隆幸、田中静夫の各証言、当審における一審被告永末星之助、白神弘本人の各供述は、原判決援用の各証拠、成立に争いのない甲第三四号証と当審証人尾上昌の証言(第一回)により成立の認められる甲第三三号証並びに右証言に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  成立に争いのない甲第三二、第三八、第三九号証、当審証人尾上昌の証言(第一回)、当審における一審被告永末星之助、白神弘各本人尋問の結果によれば、昭和四一年九月一六日ころに設置された前記旧天幕小屋が腐朽したため、一審被告らが昭和四六年一〇月一七日ころ右天幕小屋のあつた場所に新しい天幕小屋を設置したことを認めることができる。

昭和五一年九月二三日本件小屋が設置されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四一号証の一ないし三、第四二ないし第四五号証の各一、二、当審証人尾上昌の証言(第二回)により成立の認められる甲第三五ないし第三七号証及び右証言によれば、右新天幕小屋が台風のために損壊したため、一審被告永末星之助、肘井徳雄、洞ノ上敏幸、黒川又市、田中稔、香月徳一郎、石丸隆、白神弘、山中鉄之進、岩下勝行、大塚時雄、鬼崎光夫、塩塚[貝生]一、大坪正人、中井幸二郎、門司輝久が本件小屋を本件(一)の土地上に設置し、右土地を占有していることを認めることができる。

そして、前記1認定の旧天幕小屋等の設置の経緯並びに前掲甲第三五ないし第三七号証及び当審証人尾上昌の証言(第二回)を総合すれば、新天幕小屋及び本件小屋も右認定の各一審被告らの独自の判断に基づいて設置されたものと認められ、右認定に反する当審証人八代栄三、坂本隆幸、田中静夫の各証言及び当審における一審被告永末星之助、白神弘本人の各供述は、以上認定の諸事実に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、右一審被告らを除くその余の一審被告らが本件小屋を設置又は利用して本件(一)の土地を占有していることを認めるに足りる証拠はない。

三  本件立看板の設置について

昭和四二年ころ本件立看板が設置されたこと(文言は昭和四三、四四年の二回にわたり書き換えられている。)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二九号証及び当審証人尾上昌の証言(第一、二回)によれば、本件立看板が本件(二)の土地上に設置されていることを認めることができる。そして、前記二の1、2認定の諸事実に照らせば、右立看板は一審被告らが独自の判断に基づいて設置したものであることを認めることができ、右認定に反する当審証人八代栄三、坂本隆幸、田中静夫の各証言及び当審における一審被告永末星之助、白神弘本人の各供述は、前記二認定の諸事実に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  権利濫用の主張について

1  一審被告らの地位

成立に争いのない甲第一五、第四八号証及び弁論の全趣旨によれば、一審被告中井幸二郎、門司輝久は、昭和四〇年六月二三日一審原告から懲戒解雇された者であり、右懲戒解雇を有効とする控訴審判決が昭和五一年六月一六日当庁において言い渡され、右判決がその後確定したことを認めることができる。

また、右一審被告らを除くその余の一審被告らが昭和四一年九月一五日一審原告から指名解雇されたことは前記二の1認定のとおりであり、当審証人田中静夫の証言によれば、右指名解雇の効力を争つている二二名中一五名について職場復帰を命ずる一審判決が昭和四七年九月四日福岡地方裁判所飯塚支部において言い渡され、右事件が現在当庁に係属中であることを認めることができる。

2  本件小屋及び立看板等の設置により一審原告の被つている不利益

前掲甲第二九号証、第四五号証の一、二、成立に争いのない甲第三〇号証、原審証人尾上昌の証言(第一回)により成立の認められる甲第七、第八号証、当審証人尾上昌の証言(第一回)により成立の認められる甲第一九ないし第二八号証(本件現場及びその付近を撮影したものであることは当事者間に争いがない。)、原審及び当審証人尾上昌の証言(各第一、二回)によれば、抗弁に対する認否及び主張1、2記載の事実を認めることができる。

右認定に反する当審における永末星之助、白神弘本人の各供述は、右各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  本件小屋等の利用状況及びその設置目的

前掲甲第一一号証、第三二号証、第三五ないし第三八号証、第四一号証の一ないし三、第四二ないし第四五号証の各一、二、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし四、第三一号証、原審証人尾上昌の証言(第一回)により成立の認められる甲第二号証の一ないし三、第五、第一四号証、原審及び当審証人坂本隆幸、当審証人尾上冒(第一回)、田中静夫の各証言によれば、一審被告らの本件小屋等の利用状況については抗弁に対する認否及び主張3の(一)ないし(三)記載の事実(ただし、一審被告大坪輝光は本件小屋の設置に関与していない。)を認めることができ、また、その設置目的は、指名解雇事件の内容を明らかにして外部に対しアピールするとともに一審原告に対し示威すること等であることが認められ(一審原告は、同人に対する単なるいやがらせであると主張するが、これを肯認するに足りる証拠はない。しかしながら、旧天幕小屋等の過去の利用状況に照らすと、当初の設置目的が現在希薄化していることは否定できない。)、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上認定の諸般の事情を総合すると、本件小屋の収去及び本件立看板の撤去を求める一審原告の本訴請求が権利の濫用に該当するものとは到底目することができない。

なお、一審被告らは、一審原告に組合に対する数々の違法な行為があつた旨主張するけれども、本件証拠関係からは一審被告らの主張するような違法行為が存在したことについて確たる心証を形成することができないのみならず、仮に、一審原告に組合に対する何らかの違法行為があつたとしても、本件小屋及び立看板の設置は、前記認定のとおり組合の争議行為として行われているものではないのであつて、かかる事情は右権利濫用の判断を左右するに足りない。

また、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三及び当審証人田中静夫の証言によれば、組合事務所が使用不能の状況になつていることを認めることができるけれども、前記理由によりかかる事情も右権利濫用の判断を左右するに足りない。

五  結論

以上によれば、一審原告の本訴請求(当審で訴えを交換的に変更した。)中、一審被告永末星之助、肘井徳雄、洞ノ上敏幸、黒川又市、田中稔、香川徳一郎、石丸隆、白神弘、山中鉄之進、岩下勝行、大塚時雄、鬼崎光夫、塩塚[貝生]一、大坪正人、中井幸二郎、門司輝久に対し本件小屋の収去による本件(一)の土地の明渡しを求める部分及び一審被告ら全員に対し本件立看板の撤去を求める部分は理由があるからこれを認容し、一審被告大坪輝光、津川素城、石原武士、伊藤操、井上光孝、與田実、栗原鉄馬、山添健郎、淵上義人、官島宏尚、藤川貞次に対し本件小屋の収去による本件(一)の土地の明渡しを求める部分は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、第九二条、第九三条、第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良 鍋山健 原田和徳)

(別紙物件目録省略)

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